企業を守るもの 「経済的な堀」を見極めるポイントとは

eye catch image 個別株の選定方法

こんにちは、アキヒロです。

こちらの記事(事業分析について考える)で、銘柄選定をする際の事業分析の視点について整理しましたが、その際に「堀(モート)」という考え方が重要であるということをお伝えしました。

今回は、その「堀」について、もう少し詳しくみていきたいと思います。

まず「堀」が重要と述べる米国の投資家ウォーレン・バフェットの言葉を紹介します。

『投資のポイントは、企業の比較優位性を判定することにある。その優位性をどれだけ維持できるかが特に重要である。深くて広い堀に囲まれた製品やサービスは投資家にリターンを生み出す。私が重視するのは、事業を取り囲む堀がどれだけ大きいかという点だ。大きな城を大きな堀が取り囲み、その中にピラニアとワニがいれば最高だ』

『優れた企業は、長期にわたって優れた状態にある企業である』

言い換えれば、「堀」は「企業が行う事業の収益性を長期的に維持することを可能にするもの」と言っても良いかもしれません。

しかし、この「堀」、概念的にはわかりますが、実際に企業の事業分析を行う際、一体何がその「堀」足り得るのか、その見極めが課題になってくるのではないかと思います。

そこで、以下の4つのポイントについて考えてみたいと思います。

  • 「堀」足り得ないもの
  • 「堀」足り得るもの
  • 「堀」の裏付け
  • 「堀」の賞味期限

「堀」足り得ないもの

まず、株を買おうかなと、一般的には食指が動きそうな話ではあるものの、長期的に企業の収益性を守る「堀」とはならないものについて考えてみます。

優秀な経営陣

「敏腕経営者がCEOに就任」なんてニュースが出れば、株価も上がりそうですので、短期的な投資をされている方には良いかもしれませんが、それによって長期的に収益が守られるとは言えません。

経営陣は、業界の競争力学や、その企業の構造上の特徴といった枠組みのなかで、経営判断をしているわけですので、構造的な変化がないのであれば、経営陣の判断はそれほど大きな影響は与えないというのが、基本的な認識かと思います。

バフェットもこれについて、『優れていると評判の経営者が、収益性が低いと評判の事業に挑んだとき、評判を変えないのは事業の方だ』という表現をしています。

ただ、経営陣が大きな影響を与えるケースとして、業界の競争力学やその企業の収益構造を一変させるような大きな変化をもたらした場合、それは経営陣が「堀」というわけではなく、その新しい構造が「堀」足り得るのか、という点について再度分析・評価を行う必要があります。

優れた製品・サービス

優れた製品やサービス、それ自体が「堀」となることも稀と言っていいでしょう。

仮に同業他社に先んじて優れた製品を開発したとしても、通常、ライバル企業がすぐに同様の製品を売り出すことによって価格競争が起こり、収益が低下していきますので、製品やサービス自体が「堀」になるのは期待し難いところです。

特許や行政の許認可などにより、製品やサービスが守られる場合もありますが、それはあくまで特許や許認可が「堀」として機能していると見るべきでしょう。

大きなマーケットシェア

もちろん大きなマーケットシェアをもっている企業が、強力な「堀」をもっている可能性はあります。

見るべきは、なぜその企業がその大きなマーケットシェアを得ることができたのか、そこに明確に同業他社を寄せ付けない強力な優位性があるのであれば、それこそが「堀」であって、マーケットシェアが大きいという事実自体が、必ずしも「堀」になるということではないという点は整理しておいた方が良いでしょう。

「規模の経済」や「ネットワーク効果」と言われるように、シェアの大きさが有利に働くこともありますが、それは各業界の構造によりますので、シェアの大きさ自体が「堀」として機能しているかどうかは、よく分析して判断する必要があります。

「堀」足り得るもの

では、「堀」足り得るものにはどんなものがあるのでしょうか。

無形資産

無形資産には、ブランドや特許、行政の許認可といったものが含まれ、これらはいずれも、その企業に市場における優位性を与えてくれる可能性をもっています。

ただ、あくまで可能性であって、こうした無形資産のすべてが「堀」となるわけではありませんので、少し視点を整理しておきます。

ブランド

有名ブランドであれば、一見、その企業に競争優位性があるように思われますが、「堀」といえるほどのブランド力があるかどうかは、同等の仕様の競合製品において、他社の価格にプレミアムを上乗せした価格で販売できるかどうかがポイントで、つまり、ブランド価値が価格に反映できなければ、それは「堀」とは言えないということになります。

特許

特許に関しては、ひとつの優れた特許製品に依存しているようなケースは、「堀」というには心許ないところです。特許が継続的な優位性となるのは、多数の特許を基に多くの製品が作られ、業界のなかのある特定の製品分野において支配的な存在となっているような場合などは「堀」があると言っても良いのではないかと思います。

もちろん、特許はいずれ切れるものですので、さらなる製品の改良と新しい特許取得に向けた努力が継続されていることも重要です。

行政の許認可

行政の許認可も「堀」となる可能性がありますが、取得のしやすいものは当然「堀」にはなりません。また、行政の許認可も、1つの許認可ではなく、特許と同様、複数の(できれば取得困難な)許認可を得て行う必要のある事業である方がより有効かと思います。

ただし、行政により料金が規制・管理されている業界では、利益率が限定的にならざるを得ないので留意が必要です。

乗り換えコスト

顧客が他社に移る際に多大なコストが生じる場合、企業側が価格決定力をもつことになります。

例えば、企業内で使用している基幹のシステムを変えるとなると、一時的に社員の業務効率が下がることが見込まれますし、システムを変えたことによって、他のシステムと連携に不具合が起こる可能性(リスク)もあり、こうしたことが、新しいソフトの購入や開発の費用、システムの入れ替え費用に上乗せされて、多大な費用と労力がかかるため、余程のことがない限り、敢えて頻繁にそうしたシステムの入れ替えが行われないのが一般的です。

そのため、そのシステムを提供し、メンテナンスをしている企業には、価格設定に関してある程度の裁量が与えられることになります。

ただし、その価格決定力は乗り換えコストの範囲内での裁量になりますので、他社が提供しているサービス内容と価格を踏まえ、その乗り換えコストが大きな「堀」なのか、小さな「堀」なのかは、よく見極めていく必要があります。

ネットワーク効果

これは利用者の多さが、その製品やサービスの価値を高めるタイプの事業に見られるもので、例えば、VISAやMasterなどのカード会社、Microsoftといった一部のソフトウェア会社などが挙げられます。

ネットワーク効果は、そのネットワークが優勢になるほど高まってくるため、時間とともに業界内で淘汰され、寡占状態になる傾向があります。

「堀」としての優位性が強くなるのは、ネットワーク同士の競争がある程度進み、優劣が見えてきてからです。

ですので、事業内容がネットワーク効果をもたらすものだとしても、業界の勢力図を見渡しつつ、類似の製品やサービスを提供する企業のなかで、どの企業が優勢なネットワークを築いているか、見定める必要があります。

競争の結果、淘汰が進み、ある企業の製品やサービスが人々の社会・経済活動に不可欠なインフラとなっていった場合、そのネットワーク効果は非常に強力な「堀」となるケースが多いです。

規模の優位性

ネットワーク効果は、そのシェアの大きさが製品やサービスの価値を高め、優勢なネットワークが構築され、寡占状態となれば、強い価格決定力をもつことができます。

他方、ネットワーク効果がなく、単純に規模が大きいだけの場合は、その優位性は、強力な価格決定力をもつわけではなく、基本的にはコストにおける優位性になります。つまり、同じ製品やサービスを提供する際、規模が大きくなるにつれて原価が下がることで優位性が生まれるという形です。

しかし、残念ながら、これはすべての業界で言えることではなく、一部の業界に限られます。ポイントは、製品やサービスを提供するためのコストの内容にあります。

例えば、製造業であれば、設備投資をして、ラインをフル稼働させれば、その設備投資費は多くの生産量に分散することができ、製造単価を下げることができます。

他方、コンサルタント会社や法律事務所などでは、サービスにかかる主な費用は人件費になりますので、規模を拡大すれば、それだけ人材を確保する必要があり、コストを下げて優位性を確保することは困難です。

したがって、製品やサービスを提供するために必要となるコストが、設備費などの固定費にウェイトがあるのか、人件費などの変動費にあるのかで、規模の優位性が機能するかどうか、変わってくることになります。

他社が真似できない優位性

企業努力では克服できない条件、例えば、場所や気候といった地理的条件や、資源の採掘コストといった所有資産の固有の条件などにより、他社よりも有利な立場にある場合、価格面や利益率で優位性を保っていくことができる可能性があります。

「堀」の裏付け

「堀」をもっていると考えられる企業が見つかった場合、その裏付けとして、以下の点を確認してみると良いでしょう。

十分な価格決定力をもっているか

売上総利益率(粗利率)を確認。

価格決定力があれば、同業他社と価格競争をする必要はありませんので、売上総利益率を高い水準で維持することができます。

長期に収益が安定しているか

売上総利益率や営業利益率、また売上高の長期的な推移を確認。

侵食され難い「堀」があれば、利益率は安定するはずですので、長期的に横ばい、もしくは右肩上がりになっているかと思います。

利益率が低下傾向にある場合は、ライバル企業との価格競争などにより侵食されている可能性がありますので注意が必要です。

また、利益率は維持されていたとしても、売上高が下がってきている場合は、業界自体が縮小している可能性もありますので、併せて確認しておくと良いでしょう。

経営陣が替わっても収益率に変化がないか

「「堀」足り得ないもの」のところでも触れていますが、「堀」は業界の力学、その事業の構造的特徴によって築かれるものですので、経営陣が替わっても、基本的には大きな影響を受けず、収益を守ってくれます。

Morningstarの分析レポート

基本的に、投資は自分で考え、判断した方が良いと思っていますが、場合によっては他者の意見が聞きたいケースもあるかもしれません。その際、米国株であれば、Morningstarがプレミアム(有料)会員向けに「堀」の有無や大小を含めた分析レポートを提供していますので、ご関心のある方は、参考にされるのも良いかと思います。

「堀」の賞味期限

どのようなものが「堀」となるのか、また「堀」とならないのか、という点について見てきましたが、意識しておかなければならないのは、その「堀」がいつまで機能するのか、という点です。

半永久的な「堀」をもつ企業もあれば、10年、15年程度で消失する浅い「堀」をもつ企業もあるでしょう。

また、長期間にわたり保たれる強力な「堀」だと思って投資した企業であっても、その「堀」が、テクノロジーの発展や業界構造の変化によって短命に終わる可能性がないわけではありません。

賞味期限の切れた「堀」では旨味は薄く、場合によっては痛い思いをする可能性もあります。「堀」の有無を根拠に投資の判断をしたのであれば、その「堀」(投資の根拠)が崩れ始めた際には、早々に投資を引き上げるのが良策かと思います。

おわりに

「経済的な堀」をテーマに書かれた書籍として、「千年投資の公理」という本があります。

「堀」については様々な投資関係の書籍のなかでも触れられていますが、「堀」を中心テーマとして取り扱っている書籍はあまりないように思いますので、さらに理解を深めたい、具体例を知りたい方は、ご一読されることをオススメします。勉強になる一冊かと思います。

 

今回は以上です。

ご参考になれば幸いです。

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