【個別株の選定方法】財務分析① −財務状況の分析−

eye catch image 個別株の選定方法

こんにちは、アキヒロです。

長期投資をする際の個別株の選定方法について、こちらの記事(個別株の選定方法)で次の4つのステップをご紹介しました。

  1. スクリーニング: 数千社のなかから分析対象とする企業をざっくり選別する
  2. 財務分析:    財務諸表から定量的に優良な企業を選別する
  3. 事業分析:    優位性(堀)のある事業を行なっている企業を選別する
  4. 株価分析:    株式を取得する際の目安となる価格帯に目処をつける

今回は、2つ目の財務分析について、さらに詳しく見ていきたいと思います。

どの程度掘り下げて財務状況を見ていくかは、人それぞれの投資スタイルや、企業の選定にかけられる時間などにもよるかと思いますが、長期で保有していこうとするなら、中長期的に過去どうであったか、また現在どうなっているのか、未来を保証するものではありませんが、ある程度確認をしておいた方が良いかと思います。

財務分析については、大きく次の3つのパートに分けて見ています。

  「財務状況の分析」

  「収益力(構造)の分析」

  「成長性の見通し」

各パート、それなりにボリュームがありますので、今回はまず1つ目の「財務状況の分析」について説明をしていきたいと思います。

※ここではより平易な説明を心掛けていますので、会計学的な厳密性を求められる方は、専門書をご確認いただければと思います。

財務状況の分析のポイントは以下のとおりです。

  • 短期的な財務状況(短期の支払能力)
  • 不良資産や粉飾の危険性
  • 資金繰りの状態
  • 中長期的な財務状況(財務体質)
  • フローの支払い能力
  • 利益の使途

短期的な財務状況(短期の支払能力)

まず、短期的な財務状況ですが、「流動比率」や「当座比率」という指標を見ていきます。

  • 流動比率: バランスシート(貸借対照表)の流動負債に対する流動資産の割合
  • 当座比率: バランスシート上の流動負債に対する当座資産(より現金化しやすい資産、現金等価物)の割合

これらの指標を見る目的は、短期的な財務状況の健全性を確認することです。

流動負債(1年以内に償還が求められる負債)に対して、現金や売掛金、短期投資など、現金化しやすい資産がどれくらいあるのか、この比率が小さい場合、短期的な資金のやり繰りが難くなる(資金ショートする)可能性がありますので、一般的には、ある程度の水準が維持されている方が良いとされています。

また、仮に今期の流動比率が十分な水準にあったとしても、それがもし何らかの資産を売却したり、社債などを発行して得られた現金等であった場合、その比率は一時的なものであり、その企業の本来の水準ではありません。

その数字が本業で稼いだ利益の結果であるのか、財務上やり繰りした結果であるのかは雲泥の違いがありますので、注意が必要です。

他の指標もそうですが、基本的にこうした指標を確認する際は、5年〜10年程度は推移を見て、安定しているか、不安定なのか、改善傾向にあるのか、悪化しているのかを確認しておくと良いと思います。

ただし、これらの指標の比率が低い企業でも問題のないケースもあります。

例えば、安定的に継続して潤沢な現金が入ってくるようなビジネスを展開する企業で、月々の収入で負債の返済が問題なくできる場合は、敢えて手元に現金をたくさん用意しておく必要がないため、これらの指標が低い水準にあることもあります。

不良資産や粉飾の危険性

次に、「売上債権回転期間」、「棚卸資産回転期間」から不良資産や粉飾の危険性について、見ていきます。

  • 売上債権回転期間: 売掛金や受取手形等、商品を販売してから売上金を回収するまでの期間
  • 棚卸資産回転期間: 商品等を仕入れてから販売するまでの期間

これらの指標は期間が短く、また、継続して同じ水準を保っている方が良いとされています。

売上債権回転期間が変動している、または長期化しているといった場合、架空売上や売上の前倒し計上などの可能性もありますので、なぜそうした変化が起こっているのか、調べておいた方が良いでしょう。

また、棚卸資産回転期間は、在庫回転期間とも言われますが、これも変動していたり、長期化しているようであれば、過剰在庫や死に筋商品の滞留など、在庫が不良資産化している可能性もありますので、実態をよく見ていく必要があります。

資金繰りの状況

資金繰りの状況については、「運転資金月商倍率」と「現預金月商倍率」を確認します。

  • 運転資金月商倍率(運転資金回転期間): 事業継続の必要な運転資金が月商の何ヶ月分になるかを示した指標
  • 現預金月商倍率(手元流動性比率): 現預金が月商の何ヶ月分あるか示した指標

黒字倒産という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、これは、業績が黒字にも関わらず、資金繰りができなくなって倒産するケースです。

運転資金月商倍率は必要な運転資金の多寡を、現預金月商倍率は手元現金の多寡を示していますので、仮に、運転資金月商倍率が2.0(つまり、事業継続に必要な運転資金が月商の2ヶ月分)で、現預金月商倍率が1.0(手元現金が月商の1ヶ月分)の場合、何らかの手当て(短期の借り入れなど)を行わない限り、例え業績が黒字であっても資金不足に陥ってしまうということになります。

中長期的な財務状況(財務体質)

続いて、中長期的な財務状況を見ていきます。

よく使われるのは、「固定長期適合率」、「負債資本倍率」、「債務償還年数」、「自己資本比率」あたりかと思います。

 

  • 固定長期適合率

固定資産が自己資本と長期負債でどの程度賄われているか示す指標です。

この値が低いと、固定資産の取得に短期の借入金を用いていることになり、取得した固定資産が早期に現金を生む必要があります。

そういう目処が立っていれば良いですが、一般的に、取得した固定資産が収益を上げていくには時間がかかるため、短期の借り入れに頼っていた場合、短期借入金の返済のための融資を繰り返し受け続けなければならず、中長期的に資金繰りが圧迫されてくる可能性があります。

固定長期適合率の他に「固定比率」というものもあります。

これは固定資産がどの程度自己資本で賄えているか示す指標です。この値が高い場合、固定資産のほとんどが自己資本で取得されていることになりますので、財務的な安全性の観点から言えば、非常に良いですが、うまくリバレッジが使えておらず収益性が低いことがありますので、このあたりは長期の借り入れと収益性の拡大をバランスよく行っていることが重要なところかと思います。

 

  • 負債資本倍率

計算式はいくつかありますが、一般的には有利子負債÷株主資本で計算され、株主資本に対して有利子負債がどの程度あるのかを示しています。

この値が大きくなると、多額の有利子負債を抱えているということになりますので、その分の利払いも発生しますし、現在は問題なくても、中長期的に業績が悪化した場合など、この負債が財務上重くのしかかってくることになります。

資金の借り入れ自体は悪いことではありませんが、何のための負債なのか(きちんと利益を生むのか)、また程度(借入規模)は適切かなどを見ていくことが重要です。

 

  • 債務償還年数

借り入れした負債を、事業で生み出される現金で返済するのに何年かかるかという期間を示した指標になります。

負債資本倍率は、株主資本に対して、負債がどの程度の規模か測るものでしたが、この債務償還年数は、毎年生み出されるキャッシュ(収益)に対して、負債がどの程度の規模なのか知るための指標です。

負債資本倍率がそれほど高くなくても、この債務償還年数の値が大きい場合は、事業の収益力に対して、負債の額が大きすぎることになり、収益が悪化した場合など、負債の利払いに苦労する可能性もありますので、負債の多寡は、自己資本と収益力(キャッシュを生み出す力)の双方にとって無理のない範囲であることが望ましいと言えます。

 

  • 自己資本比率

総資本に占める株主資本の割合を示す指標です。株主資本は返済の義務がありませんので、この比率が高いほど、財務的に安定しているといえます。

フローの支払い能力

次に、フローの支払い能力を確認していきます。

これはその企業が稼ぐキャッシュから、事業継続に必要な設備投資費や早期に返済が必要な短期借入金などを引いたキャッシュの余力です。

この余力のない企業は、経済環境の変化などで業績が悪化した場合、すぐに事業の継続が難しくなる、借入金の返済が困難になるといったことが懸念されます。

具体的には、企業の事業活動から得られる営業キャッシュフロー(現金収支)から、事業活動の継続に必要な設備投資費や短期借入金を除いた額で見ていきます。

支払い能力は、もちろん高い方が良いですが、一定の水準で推移、また右肩上がりに伸びていることが望ましいと思います。

事業内容によっては、定期的に設備投資費が大きくなることもありますので、定期的に支払い能力が低くなる場合は、その原因がどこにあるのかも確認しておいた方が良いでしょう。

利益の使途

さて、「財務状況の分析」の最後ですが、利益の使途について見ていきます。

 

  • 利益剰余金

まず、利益剰余金が積み増されているか推移を確認します。

利益剰余金が積み増されているということは純資産が増えているということですので、それは株主の資産が増えるということを意味し、株価に反映されていきますので非常に重要です。

 

  • 自社株買い、配当、資本的支出

次に、自社株買い、配当、設備投資等を含む資本的支出の3点について、純利益に対する比率を確認します。

それぞれの目的を簡単に整理すると、自社株買いと配当は株主への直接的な還元です。自社株買いをすれば発行済株式数が減りますので、一株あたり利益(EPS)が上昇し、株価も上がります。配当は、配当金が株主に支払われることですので、これはわかりやすいですね。

一方、資本的支出は事業を継続、さらに収益を上げていくための支出になります。純利益に対して、資本的支出が大きい割合を占めている場合は、もし不景気などで利益が落ち込んだ際、事業の継続のために新たに借り入れを行い、負債を増やさなければならなくなる懸念もありますので、注意が必要です。

株主への還元として行われる自社株買いと配当は議論のあるところですので、後日、別途記事にしていきたいと思います。

 

今回は以上です。

ご参考になれば幸いです。

タイトルとURLをコピーしました