こんにちは、アキヒロです。
長期投資をする際の個別株の選定方法について、こちらの記事(個別株の選定方法)で次の4つのステップをご紹介しました。
- スクリーニング: 数千社のなかから分析対象とする企業をざっくり選別する
- 財務分析: 財務諸表から定量的に優良な企業を選別する
- 事業分析: 優位性(堀)のある事業を行なっている企業を選別する
- 株価分析: 株式を取得する際の目安となる価格帯に目処をつける
さらに第2ステップの財務分析については、「財務状況の分析」、「収益力(構造)の分析」、「成長性の見通し」の3つに分けて説明しています。
今回は財務分析の2つ目、「収益力(構造)の分析」について見ていきたいと思います。
「収益力(構造)の分析」のポイントは以下のとおりです。
- 損益計算書(P/L)構造
- コスト分析
- 株主資本に対する収益性
- 事業の収益性
- 本業の収益力
- 事業状況(キャッシュフロー計算書(C/S)分析)
損益計算書(P/L)構造
まずはP/Lの構造を見ていきます。
P/Lには、「売上総利益(粗利)」、「営業利益」、「経常利益」、「税引前当期純利益」、「当期純利益」の5つの利益が示されています。
※米国の場合は、「Gross Profit(売上総利益)」、「Operating Income(営業利益)」、「Income before taxes(税引前利益)」、「Net Income(純利益)」の4つ
これらの利益の意味するところを理解すると、その企業が行なっている事業の収益構造が見えてきます。
では、以下にこれらの利益の関係性を見ていきましょう。
売上高 | |
−売上原価 | |
売上総利益(粗利) | |
−販管費 | |
営業利益 | |
+営業外収益−営業外費用 | |
経常利益 | |
+特別利益−特別損失 | |
税引前当期純利益 | |
−法人税 | |
当期純利益 |
売上総利益から当期純利益までの5つの利益は、売上高から右の各コストや税などを順々に差し引いて求められます。したがって、各利益の差を見ていけば、どこでどれだけコストがかかっているのかがわかります。
各利益を見ていく際は、利益の金額を確認するとともに、5つの利益の売上高に対する割合を併せて見ていくと評価しやすくなります。
そして、これらの利益をどう解釈するかですが、個人的には、主に次の点を見ています。
他の指標もそうですが、単年だけではなく、5年〜10年くらいの推移は見ておいた方が良いかと思います。
売上総利益(粗利)
一貫して売上総利益の売上高に対する割合(売上総利益率(粗利率))が高い場合、それはコストに対して、販売している商品やサービスの価格を高く設定できているということですので、その市場において価格決定力をもっていると見ることができるかと思います。
つまり、多少高めの価格設定であっても、その企業の商品やサービスを使いたい、使わざる得ない状況が市場にあるということですので、その企業は何らかの優位性を持っている可能性があるということになります。
また、損益分岐点が低くなりますので、経営も安定します。
営業利益
売上総利益から販管費を除いたものが営業利益です(日本では販管費のなかに研究開発費が含められていますが、米国では販管費と研究開発費が別立てになっています)。
営業利益はその企業の本業で生み出された利益になりますので、この数字が安定して右肩上がりに伸びていることが重要です。もし営業利益が乱高下しているようなら、その企業の稼ぐ力に信用をおくことができませんので、投資先としては不安になります。
また、売上高に対する営業利益の割合(営業利益率)も確認しておいた方が良いでしょう。営業利益率は、一定の水準で安定的に推移している、もしくは右肩上がりに伸びていることが望ましいです。もし営業利益率が変動しているようなら、コストにおける固定費の割合が高い可能性があります。固定費の割合が高く、収益が安定しない場合は、経営が不安定化する可能性がありますので注意が必要です。
経常利益、税引前当期純利益
もし売上高や営業利益が安定していて、経常利益や税引前当期純利益の売上高に占める割合が大きく変動しているようなら、営業外の収益や費用、特別利益、特別損益が大きく出てしまっていることになりますので、原因を特定する必要があります。
その原因が本業に関係のない、一過性のものであれば問題ないですが、本業に影響するような固定資産の売却などであったなら、その企業の稼ぐ力の減退につながる可能性もありますので、詳しく見ておいた方が良いでしょう。
当期純利益
最終的な利益ですので、もちろん右肩上がりに推移していることが望ましいです。
ただ、当期純利益は比較的操作されやすい数字でもありますので、仮に増益している場合は、営業外損益、特別損益などではなく、売上高や営業利益、つまり本業の稼ぐ力によってもたらされた結果であるのかどうか、きちんと見ていく必要があります。
コスト分析
次に、コスト分析をしていきます。
ここでは、販管費や研究開発費、減価償却費、支払利息がどの程度かかっているのか、を見ていきます。これらのコストの意味するところを知っておくと、その企業や業界の性質をより把握しやすくなります。
研究開発費
多額の研究開発費がかかっている場合は、先進技術や特許などによって競争力を保っていることが想像されますので、技術開発に遅れをとる、特許が切れるといったことにより、競争力を失う可能性を孕んでいると見ることができます。
減価償却費
減価償却費は、製品やサービスを生産するのに必要な設備などの購入代金を、購入した年に一度に経費計上するのではなく、耐用年数で分割して計上していく費用になります。
P/Lのなかでは販管費のなかに含められていますので、P/Lからは具体的な数字がわかりませんが、キャッシュフロー計算書で確認することができます。
減価償却費が膨らんでいる場合は、競争力を維持するために常に製品のラインナップを更新し続けなければならないような業界で、購入した設備や機材を耐用年数まで使い切らず、頻繁に大きな設備投資が必要となっているといったことも考えられます。そういった企業は将来的に負債や利払いが増え、経営が苦しくなっていくことが予想されますので注意が必要です。
販管費
販管費には研究開発費と減価償却費が含まれていますが、上記のとおり、別に見ますので、ここではそれ以外の費用を確認します(米国企業の場合は、販管費と研究開発費が別立てになっていますので、減価償却費のみを除く)。
この販管費も低い水準にあることが望ましいですが、事業内容にも依りますので、一概にどの程度とは言えません。ただ、年によって大きく変動するのではなく、一貫して一定の水準を保っていることが大切です。
支払利息
営業利益の多くを利払いが喰ってしまっている場合は、ビジネスの収益力に対して、負債多寡の状態になっています。
多くの負債を抱えないと生き残っていけないのでは、将来的にジリ貧になっていく可能性がありますので、敢えてそうした企業に手を出す必要はないかと思います。
株主資本に対する収益性
株主資本に対する収益性を見ていきます。指標としては、ROEとEPSを確認します。
ROE(Return on Equity:自己資本利益率)
ROEは、企業が自己資本(株主資本)を活用してどれだけの利益を生み出しているのか、を示しており、株主の立場からすると、自分が投資した資金が如何に効率的に活用され、利益が生み出されているかを表していますので、多くの投資家が重要視している指標です。
ただ、ROEが高い場合、それは本当に稼ぐ力が強く、つまり収益(Return)が大きいことから高くなっているのか、もしくは、過度な財務リバレッジをかけて(負債を増やして)資産における自己資本(Equity)の割合を下げて、ROEを高くしているのかといったあたりは見ておく必要があるかと思います。
余談ですが、2018年3月13日の日本経済新聞(Web版)に「日本企業の稼ぐ力、世界水準に ROE初の10%超え」という記事が掲載されていました。
こうした記事が掲載されるくらいですので、日本企業の稼ぐ力は米国などに比べて強くはないということかも知れませんが、良く言えば、あまり財務リバレッジをかけない無理のない経営なのかも知れません。
ROEも乱高下しているより、安定して高い水準にあることが望ましいです。
EPS(Earnings per Share:一株あたり利益)
EPSは、当期純利益を発行済株式数で割ったもので、一株あたりの純利益の額を表す指標です。
この指標が右肩上がりに伸びていれば、その企業の利益は増えていることになりますし、減っていれば減益していることになります。したがって、EPSが上昇すれば株価も上がり、EPSが下がれば、株価も下がるといった傾向が見られます。
ただし、気をつけなければならないのは、EPSは「当期純利益」を用いて計算していますので、特別利益などの本業とは無関係の利益でも増えるということです。
EPSは株価に影響を与えますので、EPSを良く見せようと何らかの資産の売却などで利益を上げているような場合は要注意です。
また、発行済株式数で割っているという点も留意するところです。
仮にその企業が増資して新規株式を発行すれば、分母の発行済株式数が増えますので、EPSは下がります。
また、自社株買いを行えば、発行済株式数は減りますので、EPSは上昇します。
株主還元として、自社株買いを行い、EPSを上昇させ、株価を維持、上昇させることはよく行われていることですが、減益を誤魔化すために自社株買いをしている場合は要注意ですので、EPSだけではなく、純利益や営業利益などの推移もきちんと確認しておくことが大切です。
事業の収益性
続いて、事業の収益性について見ていきます。
ROA(Return on Assets:総資産利益率)
まず、ROAを確認しましょう。ROAは、総資産を活用してどれだけの利益を生み出しているか、ということですので、その企業の事業自体、またビジネスモデル自体の稼ぐ力を見ることのできる指標になります。
先ほどのROEとの関係で言えば、企業は、大なり小なり借入を行い、財務リバレッジをかけて、自己資金のみで事業を行うよりも大きく事業展開を行なっているのが通常です。ROEの計算には、この借り入れ部分が入っていませんので、財務リバレッジを高めることでROEの数値を上げることができます。
他方、ROAのAの部分には自己資本に加えて借入金も入っていますので、財務リバレッジにより、数字を上げることができないため、事業やビジネスモデルそのものの収益性を見ることができます。
ですので、ROEが高くて魅力的な企業があったとしても、ROAが低い場合は、無理な財務リバレッジをかけている可能性がありますので、コスト分析の項でもお伝えしましたが、支払利息が無理のない範囲にあるのか、また、こちらの記事(財務状況の分析)で紹介した「負債資本倍率」や「債務償還年数」といった指標を、併せて確認をしておくと方が良いでしょう。
Sustainable Profitability(持続的収益率)
加えて、もう一つ指標を加えておきたいと思います。
理由は、ROEやEPS、ROAに計算に使われている利益が当期純利益であるためです。
当期純利益は比較的操作しやすい数字ですので、類似の意味合いで事業の収益性を見る指標として次の値も併せて比較しておくと良いでしょう。
(営業キャッシュフロー−資本的支出)÷(株主資本+長期借入金)
純利益は帳簿上計上されているものですが、売上代金の回収には時間差があるため、実際にはまだ入金されていないものも含まれています。他方、営業キャッシュフローは実際に入金済みのお金ですので、誤魔化し難い数字です。
ですので、この営業キャッシュフローから事業継続に必要な資本的支出(設備投資費など)を引いたものを分子において計算しています。
また、分母はその企業の基盤となる長期資産(株主資本+長期借入金)をもってきます。
この数字とROAに大きな乖離がない場合は特に問題ありませんが、数字がかけ離れている場合は、どこに原因があるのか、確認しておいた方が良いでしょう。
本業の収益力
次に、本業の収益力を見ていきます。
指標としては、株主資本に対する営業利益率と総資産に対する営業利益率を見ていきます。
ROEやROAは当期純利益を用いて計算しているため、営業外損益、特別損益が入っていますので、純粋に本業の収益力を見ることはできません。
したがって、その部分を捕捉する意味で、本業での利益を示す営業利益を用いて計算した数字を確認しておきます。
営業利益÷株主資本
営業利益÷総資産
ROEが高まっていたとしても、株主資本に対する営業利益率が伸びていなければ、何か本業外の影響が純利益に反映されていることになりますので、その要因は確認しておいた方が良いでしょう。
すべての指標は1つだけでは不完全ですので、それぞれの指標の意味合いと各指標の関係性を理解した上で、いくつか併せて見ておくことが重要になります。
事業状況
「収益力(構造)の分析」最後の項目、事業状況を確認するためにキャッシュフロー計算書(C/S)を見ていきます。
C/Sは、「営業キャッシュフロー(営業CF)」、「投資キャッシュフロー(投資CF)」、「財務キャッシュフロー(財務CF)」の3つの部分に分けられています。
- 営業CF:商品やサービスの販売等、企業が日常の営業活動から得たキャッシュの量を表す
- 投資CF:事業を継続するために必要な資金(固定資産の取得や売却、設備投資等)を表す
- 財務CF:企業がどのように資金調達や返済を行なったかを示す
この各CFがプラスなのか、またはマイナスなのかのパターンの組み合わせから、その企業の事業の状態というのがある程度想像することができます。
この部分については、山口揚平氏の「ほんとうの株の仕組み(PHP文庫)」という本に詳しく書かれていますので、興味のある方はご一読されると良いかと思います。とても勉強になる本です。
以下にポイントになる部分を引用しておきます。
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A |
B |
C |
D |
E |
F |
G |
H |
営業CF |
+ |
+ |
+ |
+ |
– |
– |
– |
– |
投資CF |
+ |
+ |
– |
– |
+ |
+ |
– |
– |
財務CF |
+ |
– |
+ |
– |
+ |
– |
+ |
– |
A:+++営業活動で現金を生み出した上に借入等で現金を増やしている。さらに、固定資産や有価証券等も売却している。将来の大きな投資のためにお金を集めているのだろうか。
B:++-営業活動と、固定資産や有価証券等の売却により現金を生み出し、借入の返済を積極的に行っている。財務体質強化の段階にある会社だろう。
C:+-+営業活動で現金を生み出した上に借入などで現金を増やし、積極的に投資活動を行っている。将来の戦略も明確な優良企業のパターン。
D:+–営業活動で生み出した現金を投資活動や借入金の返済に充てている。潤沢な営業CFがある会社であろう。
E:-++営業CFのマイナス分を借入と固定資産や有価証券の売却で賄っている。問題会社の一般的なパターン。
F:-+-営業CFのマイナス分と借入返済分を固定資産や有価証券の売却で賄っている。過去の蓄積を切り売りして事業を継続している。
G:–+営業活動で現金を生み出せていないが、将来のために設備投資を行っている。営業のマイナス分と設備投資資金をすべて借入や新株発行で賄っている会社。
H:—営業活動で現金を生み出せていないのに、将来のための設備投資を行い、借入金の返済も行っている。過去に多くの現金の蓄積があった会社なのだろう。
また、営業CFに投資CFを加えることでフリーキャッシュフロー(FCF)を求めることができます。
投資CFは通常、固定資産の取得や設備投資費などでマイナスになっていますので、事業継続に必要な資金を営業CFから差し引く形になります。
FCFは企業が自由に使うことができるキャッシュのことで、これにより借入金の返済や事業拡大、配当や自社株買いといったことが可能になりますので、多ければ多いほど良いと言えます。
ただ、事業内容によっては数年に一度大きな設備投資などが求められるケースもあり、そうした場合にはFCFの値も一時的に低くなるといったこともありますので、やはり数年分の推移は確認しておいた方が良いかと思います。
以上、財務分析の2つ目、「収益力(構造)の分析」でした。
ご参考になれば幸いです。